実 戦 ギ タ ー 合 奏 入 門

 

 

 

 

 

佐野正隆

 

 

 

 

教え上

TO

習い上

 

 

 

 

 

 

今回は、アンサンブル指導における極意を1つお教えしましょう。これは企業秘密に属することですので、あまり大きな声では言えないのですが、耳をすまして聞いてください。その極意とは、“数分の練習でアンサンブルのレベルを一挙に上げる法”です。こんな謳い文句で宣伝している通信販売の品物を買ってもだまされるのが落ちですが、もしそう感じた人はこの先は読まずにとっとと次のページに移ってください。さて、その方法をひとことで言えばメンバーの持っている力を充分に引き出して、全員の表情とリズム、それに音を出すタイミングを一致させることです。例えば、催眠術では普段の数倍の能力を出させることが可能です。これに似たことかもしれませんが、実際にその気になれば本当には出せる大きな能力があるのです。その秘めた力を出せるかどうかです。話が少しオーバーになってしまいましたが、実際には皆さんが持っている普段の能力をそのまま出せればよいのです。アンサンブルは何人かの人間が一度に同一の音楽を表現するわけですが、その時に全員の表現の仕方が完全に一致していれば、素晴らしいアンサンブルが生まれるはずです。表現という言葉で片づけてしまいましたが、もっと具体的に考えてみましょう。10人のメンバーが、一度にf(一人ののレベルを10とする)の音を出す時、ピッタリと合って1人も裏切ることなくレベル10の音量を出せば、全体では単純に考えてレベル100に達するはずです。しかし、‘ここはですよ’と、くどくど説明しているのにもかかわらず必ずレベル5ぐらいしか出さない人が何人かいるはずです。これで全体のレベルは70ぐらいに下がってしまいます。また完全に1つのタイミングで音を出せないのが常で、半分の人がずれて弾いてしまうとレベルはさらに35ぐらいに半減します。さらに言うと、するどくタッチした音と柔らかくタッチした音では溶け合いませんし、音質や音色の違う音もしかりです。要するに違った気持ちで違った表現をしてしまえば、互いの音のエネルギーがプラスにならず、マイナス方向に働いてしまいます。これらを考慮すると皆さんが普段発揮している能力は、充分にそれを発揮できた時に比べて全体のレベルが10分の1以下になっていると考えられるのです。そこで皆さんの能力を100%引き出せなくとも70%ぐらい引き出してあげると、その演奏は一気に数倍レベルアップすると期待されます。それではどうやって能力を引き出すかを説明しましょう。まずの音を出させたい時には、大きな声で前拍をタイミングよくカウントすること。小学校の頃を思い出してみてください。体育の先生などでめちゃくちゃ大きな声の出る先生が1人はいましたよね。その先生が‘気をつけ’というと、体が声に反応してビシッと気をつけをしたものです。今のが聴覚なら次は視覚です。前拍のカウントを今度は指揮でもしてみます。声と同様、前拍をするどく力強く振ります。優秀な指揮者であればひとことも声を出さずに棒を振り上げることだけで演奏者に大きな音を出させることができます。この両方を同時にやれば、たいていの人がで弾くようになります。要するに視覚と聴覚に訴えてメンバーを引っ張るのです。演奏を聴いて悪いところを指摘するだけではなかなかうまくなりません。著名な指揮者の指導を見ていると、高尚なお話をしながら非常に音楽的なレッスンをしていらっしゃいます。しかし、それはプロやセミ・プロ相手であって、普通の人には言葉だけで音楽の細かいイメージまでなかなかつかんでもらえません。ましてや、メンバー全員が同じイメージを抱けるとは限りません。

 最後にもう一度まとめておきましょう。アンサンブルを短時間でレベルアップさせるには指揮者が積極的に音楽のイメージを示すこと。それは表情をしっかりつかんで歌うこと。やさしい部分は徹底的にやさしく歌い、力強い部分はそのように歌うのです。それと同時に表情豊かで、奏者が弾きよい指揮をして、メンバーをぐんぐん引っ張っていくことです。メンバーは指導者の歌声を聴いて音楽の流れや表情をつかみ、指揮をしている手の動きや顔つきを見て、リズム感や細かいニュアンスを体全体で覚えるのです。